- Date: Tue 02 01 2018
- Category: 女子サッカー
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藤枝順心、日ノ本学園を破り、日本一奪還に大きく前進

西森彰=取材・文・写真
第26回高校女子サッカー選手権は、2回戦にして、早くもインターハイ決勝と同じ顔合わせになった。夏冬連覇を目指す日ノ本学園(兵庫)は、関西大会で優勝。1回戦は聖和学園(宮城)との伝統校対決となり、スコアレスドロー。PK戦の結果、2回戦へ進出した。一方、藤枝順心(静岡)は、東海大会を2位抜けして本大会へ。1回戦は専大北上(岩手)に10点ゲームで圧勝した。
1回戦から1日も経たない試合間隔。選手の疲労度から言えば、当然、順心にアドバンテージがあるが、厳しいゲームを経験していないことがどう出るか。事実、インターハイでは準決勝で大勝後、PK戦を勝ってきた日ノ本に敗れた。
「もちろん、日ノ本は一番、厄介な相手だと思っていました。勝負は五分五分かな、と。選手は組合せが決まった時点で今日のゲームの意味をよくわかっていた。1回戦と2回戦はセットだと選手には伝えました。同じ相手に2度負けるのは(できない)。今日も『圧倒して勝て』と送り出しました。そういう気概を持って選手は望んだと思います」(多々良和之監督・藤枝順心)

前半から、ボールを回しながら攻め口を探る順心だが、日ノ本は大会ナンバーワンGK・米澤萌香の声を頼りに、固い守備ブロックを形成する。そうやってリトリートした状態から、手数をかけないカウンターから、FWの平井杏幸が2回ほど抜け出すシーンを作り出した。「前半を終えた時点で、ウチが1点、2点リードしていなければ、と思っていました。向こうもきちんと引いてブロックを作って、攻めあぐんでいた印象。日ノ本ペースかな、と」多々良監督は感じていた。
そんなジリジリする展開の中で、キャプテンの千葉玲海菜は、ディフェンスラインの前でセカンドボールの保持に力を注いでいた。インターハイでは日ノ本に消耗戦へ引きずり込まれて、我慢比べに負けた。相手のフィードを弾き返した後、ルーズボールを拾い、事故の芽を摘む。プレーする中で千葉は、日ノ本の選手からそれとなく「PKでもいい」という余裕を感じたという。
何しろ、日ノ本はPK戦にめっぽう強い。特に今年の成績は圧倒的だ。インターハイ準決勝の作陽戦に、今大会関西予選決勝、そして皇后杯の関西予選では1回戦から準決勝までの3試合に、前述した聖和戦まで。「5回、6回やって負けていないと聞いていたし、昨日の映像も見ましたが、良いGKがいて、キッカーもいい。『これはPK戦になったら負けるな』と思っていました」と多々良監督。順心は80分以内に勝負をつける必要があった。

後半になって、リスクを消す役目に専念していた千葉が、攻撃に関わるようになり、ここからゲームが動き出した。55分、順心の攻撃。左SBの森藤凛からペナルティエリア手前に絶妙のクロスが送られる。フリーで小原蘭が走り込んできたが、状況を把握したGK・米澤が飛び出してクリア。直後にも、今田紗良のクロスから日ノ本ゴール前で混戦になり、最後はこぼれ球を齋藤久瑠美がシュート。これが日ノ本のゴールバーを叩く。順心に流れが来つつあった。
劣勢を感じ取った日ノ本イレブンは、ここで反撃に出ることを選択する。球際の強さを活かしながら、徐々に順心陣地へ入り込む日ノ本の選手たち。これを田邊友恵監督(日ノ本)は、複雑な心境で見守っていた。「どこかでワンチャンスを決めきれればと思っていた。別にPK戦をしたいわけではなく、試合の中で点を取って勝ちたい。GKはともかく、キッカーを務めるフィールドの選手はその気持ちが強い。そしてある程度それができていたら、人間だし、そうなってしまう」。
互いに五分の状態だったのなら、この選択も功を奏していたかもしれない。しかし、二日続きのゲームで、蓄積した疲労度には差があった。前半、守備に徹して差を埋めていたが、ここで前に出たために、日ノ本のガソリンは枯渇しつつあった。72分の決勝ゴールはそんな中で生まれた。
右サイドからのクロスにニアサイドで競り合ったこぼれ球へ、今田が走る。日ノ本守備陣の人数は足りていたが、誰がここに行くべきか、互いに躊躇した。ようやく寄せてきた渡邊那奈を1タッチで交わした今田は、左足を振り抜く。「(渡邊に)うまく指示ができなかった」と悔やむ米澤の手を掠めながら、シュートは日ノ本のゴール右隅に転がり込んだ。
「展開がこうなって、攻められるかもという感じになって、攻撃に出た結果、スペースに戻り切れなくなった。最後まで冷静にという部分が足りなかった。結果的には相手陣内に攻めあがっていたため、最後はスペースを埋めるだけの足がなくなっていた。でも、ああいうシーンでしっかりとシュートを打ち切るのが個の強さですよね」と悔しそうに語った、日ノ本の田邊監督。
得点面では最も期待できる渋川鈴菜を失点直前に交代していた日ノ本に、追いつく術はなかった。

「クリアミスがたまたまこぼれてきました。普段慌てているのに、落ち着いていました。消極的だったので、積極的に行こうと思っていました」と殊勲の今田。実は、大会の3週間前、ケガに見舞われていた。患部はひどく腫れて、最初は松葉杖をつくほどの状態。練習も2週間休んだが「残りの1週間で驚異的な回復を見せ、そこからはこの試合に照準を合わせてきました」(多々良監督)。
もともと、順心の指揮官は、ケガ明けの選手に多くの期待は寄せない。
「ケガ明けの選手が活躍することは多くないので、今回もあまり期待していませんでした。前半、悪かったらすぐに後半、代えようと思っていました。2年前の児野楓香(藤枝順心→日体大)くらいしかうまく行った例がない。ただ、今田は児野の姿を見ていましたから」(多々良監督)。
1回戦の専大北上戦、今田はスタンドから控え選手たちとともに、ピッチ上のチームメイトへ声援を送った。「試合に出られない選手が本当に楽しそうに応援している姿を近くで見て、この人たちのためにも、夏の借りを返さなきゃいけないと思いました」と今田。中盤での競り合いを制した千葉は、その活躍に「この日のためにやってきたんだから、やってもらわなきゃ困る」。3年間、良い時も悪い時も一緒に過ごしてきた同級生の活躍は、キャプテンにとっても、嬉しいものだったはずだ。
秋を越えて、下級生がレギュラーに増えてきた順心。だが、大一番を制したのは、経験豊富な最上級生の力だった。