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【ブラサカ・アジア選手権2011】激闘の記録 4

ブラインドサッカー・アジア選手権2011 3位決定戦
日本代表vs.韓国代表
日時/12月25日(日)11:00
場所/元気フィールド仙台
結果/日本2-0韓国

取材・文・写真/中倉一志

「悔しいけれど、まだ試合がある。日本で、仙台で行われるアジア選手権最後の試合に勝利して、みんな笑顔で大会を終えたい」(黒田智成)
「最終日に負けたら前回大会と同じ4位。それではこの4年間、全く進歩していないことになる」(三原健穏)
 パラリンピックに出場する。それは日本ブラインドサッカー協会設立以来、10年間に渡る悲願だった。それが断たれた前日のイラン戦。宿舎に帰るバスの中で選手たちの落ち込み様は相当なものだったという。しかし、彼らはいつもの姿で帰ってきた。いや、いつも以上の気持ちだったかも知れない。「今日が4年後のパラリンピックに向けての第一歩」(三原)。日本代表は、強い気持ちを持って韓国との3位決定戦が行われるピッチに現れた。

 その気持ちは、試合開始のホイッスルの音と同時に爆発した。立ち上がりから積極的に仕掛ける日本は韓国を圧倒。ほとんどの時間を相手陣内で過ごす。その姿から、このメンバー、このスタッフで戦う試合で全ての力を出し切ろうという強い想いが伝わってくる。いつもなら最後尾に構え、相手の攻撃をしぶとく断ち切る田中章仁も積極的にドリブルを仕掛けて前線へ。何度も際どいシュートを放つ。そんな彼らにスタンドからは前日までと変わらない熱い声援が届く。コールリーダーの声は完全につぶれている。けれど、日本代表を後押しする気持ちは少しも揺るがない。

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 そして、日本の先制ゴールが生まれたのは前半15分22秒8。佐々木康裕が流れの中から鮮やかに韓国ゴールネットを揺らす。そして追加点は前半21分29秒3の葭原滋男のゴール。「僕はPKを決めるために、このチームに呼ばれている」という葭原にとって、前日のイラン戦でのPK失敗は悔やんでも悔やみきれないプレー。心の中でいつもの言葉をつぶやき、愛おしむようにボールに触れ、思い切り右足を触り抜いた。「当たり損ねでした」と本人はゴールシーンを振り返るが、気持ちがこもったボールはGKの逆を突いて左隅を捉えた。

 日本の勢いは後半に入ってからも変わらない。メンバーを入れ替えて反撃に出ようとする韓国の出鼻をくじき、前半同様、一方的に押し込みながら試合を進めていく。そして、試合終盤に、この日、先発でプレーした主将・三原健朗が再びキャプテンマークを巻いてピッチに現れると、全員の意識が三原に集中する。

「みの(三原の愛称)!どこにいるんだ!声を出せ!」と落合が叫ぶ。「おう!」と答える三原。その足下に落合から絶妙なパスが届く。そして、誰もがボールを持つと三原を捜し、ベンチからも「みの!」と声がかかる。チーム最年長の三原は前日までは出番はなし。しかし、試合に出たいという気持ちを抑えて、仲間の戦いをベンチから後押しした。チームはピッチに立つ5人だけじゃない。そこにいる全員で戦うものだという想いからだ。その想いを知る仲間たちが三原を後押しする。その光景は、日本代表がひとつにまとまって戦ってきたことを証明するシーンだった。そして、前後半50分間に渡って日本は韓国を圧倒。見事な内容で最後の試合を終えた。

 4日間に渡る戦いの日々が終わった。日本ブラインドサッカー界悲願のパラリンピック出場は叶わなかった。しかし、これで何かが終わったわけではない。この日は、新たな目標へ向けてのチャレンジを始めるスタートの日。次のパラリンピックを目指す者、新たな形でブラインドサッカーの強化に携わる者、それぞれの目標は違ったものになるかもしれないが、彼らは、それぞれの場所で、それぞれのやり方で、新たな目標にチャレンジする。観客に向かって胸を張る姿は、そう語っていた。

 また、この大会で彼らは多くの人たちに大切なことを気づかせてくれた。どんな状況になっても最後まで諦めないこと。常に自らの想いと力の全てを目の前のものにぶつけること。目標に向かってチャレンジし続けること。それらは簡単なことではない。けれど、ゴールを目指すことで、彼らはそれを表現した。「可能性は無限大」。大会期間中張られていたダンマクに書かれた言葉は、彼らに送られた言葉であると同時に、観客に向けて発せられたメッセージでもある。

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(了)


【ブラサカ・アジア選手権2011】激闘の記録 3

111224_01.jpg ブラインドサッカー・アジア選手権2011
日本代表vs.イラン代表
日時/12月24日(土)14:00
場所/元気フィールド仙台
結果/日本0-2イラン

取材・文・写真/中倉一志

 3日目を迎えた元気フィールド仙台のスタンドには、この日も大きな日の丸の旗が飾られ、早い時間帯から多くのサポーターが足を運んだ。前日までの成績は、中国の勝点6を筆頭に、日本(同3)、韓国(同1)、イラン(同1)と続く順位。日本が一歩リードしているとは言え、残されたひとつのパラリンピック出場枠を争う戦いは、依然として混沌としていた。そして、第1試合の中国vs.韓国がスコアレスドローに終わったことで、まずは韓国が脱落。残る一つの枠を日本とイランで争うことになった。

 ここまでの2試合を見れば、組織で戦う日本に対し、イランは個のフィジカルと技術の高さで戦うチームと、そのスタイルは極めて対象的だ。しかし、力関係で見れば全くの五分と五分。どちらが勝利を手にするかは全く分からない。勝負を分けるのはディテールの部分。引き分け以上という条件が日本にどのような影響を与えるのか?あるいは、勝利が必要なイランが、どのような精神状態で臨むのか?日本の歴史を変える戦いが14:00にキックオフされた。

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 しかし、立ち上がりの日本の動きが重い。引き分けでもいいという状況が影響しているのか、必要以上に慎重になっているかのように見える。そして、前半の主導権はイランへ。恵まれた体格を活かし、力強いドリブルで仕掛けるスタイルで日本を自陣内へ押し込んで試合を進める。日本は、そのドリブルを止めることが出来ず、ここまでの戦いで五分以上に渡り合ってきたフェンス際の攻防でも後手を踏み、ジリジリと後ろに下がらざるを得ない展開が続く。それでも、何とか粘り切って前半は0-0。勝負は後半へと持ち越された。

 日本らしさが感じられるようになったのは後半に入ってから。黒田智成、落合啓士を中心に攻撃のリズムを取り戻すとイラン陣内へ。その動きにけん引されるように全体のポジションが高くなり、際どいシュートでゴールを襲う。日本が完全に主導権を取り戻したかに見えた。しかし、後半6分51秒9、先制点を奪ったのはイランだった。いつものように1人で仕掛けるイランに対し、日本はゴール前で3人が対応。決して危ない場面には見えなかった。だが、そんなところからでも強引にシュートをっのがイラン。足下の狭いスペースを抜けた来たボールをGKが抑えるのは難しかった。

 そして2点目もイラン。壁際での攻防をパワーと巧みなターンで抜け出したBehzad Zadaliasghar NigiehがGKと1対1に。右足から放ったシュートがゴール左隅を捉えた。それは17分45秒6のことだった。しかし、日本は前へ出ることをやめない。あくまで自分たちのサッカーを連ねてパラリンピック出場をめざす。スタンドから送られる熱い声援を背に受けて、自らを鼓舞し、仲間を鼓舞し、そして決定機を作り出していく。だが、放ったシュートはゴールをわずかにそれ、イランGKの攻守に阻まれ得点が生まれない。結果は0-2の敗戦。日本はパラリンピック出場にあと一歩に迫りながら、最後の壁を崩すことが出来なかった。

 試合内容は全くの五分。決定機の数でも互角だった。決定力の違いという言葉もそぐわない。ただゴールが入ったか、入らなかったか。試合を分けたのは、ただそれだけの理由だった。しかし、それがサッカーだ。日本ブラインドサッカー協会(2010年8月に日本視覚障がい者サッカー協会から改称)が設立されてから10年目の節目の年に目指したパラリンピック初出場は残念ながら叶わなかった。

 ほとんどの選手たちが10年前からともに戦ってきた仲間。10年間の思いをかけた戦いに敗れた悔しさは計り知れない。それでも、黒田は「パラリンピック出場権を取れず悔しい。けれど、大会はまだ終っていない。最後はしっかりと勝って、みんなで笑顔で大会を終えたい」と気丈に話した。そして、翌日行われた3位決定戦で、彼らは自分たの想いをピッチの上で存分に発揮してくれた。これが日本のブラインドサッカー。そして、これが支えてくれた人たちへの感謝の気持ち。それは素晴らしい戦いだった。

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(続く)


【ブラサカ・アジア選手権2011】激闘の記録 2

111223_01.jpg ブラインドサッカー・アジア選手権2011
日本代表vs.韓国代表
日時/12月23日(金)14:00
場所/元気フィールド仙台
結果/日本1-2韓国

取材・文・写真/中倉一志

 日本のパラリンピック出場に大きな影響を与える伝統の日韓戦。14:00からの試合にも拘わらず、午前中から多くのサポーターがスタンドに足を運んだ。それぞれの手にサムライブルーのスティックを持ち、観客が陣取る右側には大きな日の丸の旗が広げられている。パラリンピックの出場権を得られるのは、既に出場権を有している中国を除いて1か国だけ。ロンドンへの切符を掴むためには、もう一つも落とせない。そんな状況の中、ホームの熱い声援で選手たちを後押ししようという思いが伝わってくる。

 初日に中国に敗れた日本は、この試合で勝点を取れなければ、その時点でパラリンピックへの道が閉ざされる。一方の韓国はイランと引き分けて勝点1を持つが、今大会で一つ上の実力を有する中国との対戦を最終戦に控えており、日本に勝たない限り、パラリンピック出場の可能性は限りなく小さくなる。ともに勝たなければいけない1戦。戦う前から、ピッチには独特の緊張感が漂う。そして14:00、互いに取っての大一番がキックオフされた。

 まず、試合を押し気味に進めたのは日本。中国戦と同様に前線からのプレッシャーで韓国の勢いを止め、韓国陣内で時間を過ごす。だが、高い位置でボールを落ち着かせられずチャンスを広げられない。そして、やがて勢いは韓国へ。YEONGJUN JANG、KYUNG HO KIM、YUNCHEOL SHINらが鋭いドリブルを仕掛けて日本ゴールに迫る。だが韓国も、粘り強く守る日本を崩すことが出来ない。試合は、いつ、どちらに傾いてもおかしくない膠着状態のまま進んでいく。

 そんな状況に変化を与えたのが、黒田智成と落合啓士の2人だった。この2人を中心に高い位置でボールを納められるようになった日本は、次第に韓国ゴールを脅かすようになる。その流れは後半に入っても変わらない。後半 5分36秒5には、攻めに出た裏を取られて先制点を喫したが、日本からは慌てるそぶりは感じられない。「まだまだ時間はあったし、1点取られても、そこから逆転出来るようなメンタルトレーニングも積んできた。気持ちを切り替えて次のプレー臨むことができた」(黒田)。前に出る姿勢をなくさない日本は、積極的に仕掛け、そして際どいシュートを打ち続ける。そのひとつ、ひとつのプレーには、絶対にパラリンピックへ行くという強い気持ちが伝わってくる。そして、その思いをスタンドからの熱い声援が後押しする。

 後半15分53秒7、そんな思いが結実する。決めたのは落合。左からのCKからゴール前中央のスペースへ抜け出して右足を一閃。韓国ゴールネットを大きく揺らす。そして、残り1分7秒5、この日、最も大きな歓声がスタジアムを包みこんだ。「足に負担が来ていて(怪我の状況が)少し難しい状況で細かい切り返しが難しかった。一発にかけてスピードだけで抜いて思いきり蹴った」(黒田)。黒田の思い、チームの思い、そして日本代表を支え続ける人たちの思いを載せたボールが、韓国GKの差し出した左手をた弾きとばしてゴールネットへと転がり込んだ。そして試合終了のホイッスル。日本はロンドンに続く大一番を全員の気持ちで勝ち取った。

「ありがとうございます。日本で試合をするのは本当にいい。皆さんがこんなに応援してくださって選手たちも乗ってくるし、僕も頑張らなければいけないという気持ちが一層強くなってくる。ホームで戦うことの意味が本当によく分かる。明日も頑張ります」(風祭喜一監督)。そして日本は、パラリンピック出場権をかけてイランとの最後の戦いへと臨んだ。それは、日本らしさとは何かを改めて示し、そして、サッカーの難しさを改めて知らされる試合となった。

(続く)


【ブラサカ・アジア選手権2011】激闘の記録 1

ブラインドサッカー・アジア選手権2011
日本代表vs.中国代表
日時/12月22日(木)11:00
場所/元気フィールド仙台
結果/日本0-2中国

取材・文・写真/中倉一志

 12月21日、前日に振った雪がまだ残る元気フィールド仙台で、ブラインドサッカー日本代表チームの初のパラリンピック出場権をかけた第4回アジア選手権が戦いが始まった。戦うチームは、中国、韓国、イラン、そして日本の4チーム。既に中国がパラリンピック出場権を獲得しているため、残る1枠を韓国、イランと3か国で争う。日本が歴史を変えるべく臨む大会に臨むに当たり、日本ブラインドサッカー協会の釜本美佐子理事長は次のように話す。「ブラインドサッカー協会を設立して10年目の節目の年。監督、選手、そして私も含めて、全員一致の気持ちでパラリンピック出場を目指すというのが共通の想い」。そして11:00。日本の初戦が始まった。

 戦う相手はアジアNo.1の実力を有する中国。現在、大会2連覇中の押しも押されぬアジアチャンピオンだ。特長は高い技術を伴う高速ドリブルで、スピードに乗ったら複数で囲んでも止めることは難しい。大会前日の20日に行われた公開練習に参加せず、仙台入りは20日の晩。既にパラリンピック出場が決まっているため、どの程度の本気度で来るか疑問視する向きもあったが、ウォーミングアップで見せるテクニックの高さは、この大会が彼らにとって決して消化試合ではないことを物語る。試合が始まると、持ち味であるドリブルと、高いテクニックを伴ったターンを駆使して、日本の守備組織を左右に揺さぶり、隙ができたと見るや果敢に縦に仕掛けてゴールを狙う。

 日本も決して負けてはいない。中国封じの決め手は、キャンプの時から取り組んできた高い位置からのハイプレッシャー。中国がスピードに乗る前に止めてしまうのが狙いだ。ベンチに控える風祭喜一監督、そして最後方に構えるGKの声を頼りに4人が連動しながら高い位置からボールを追う。そして壁際の争いでは体ごと激しくぶつかっていく。他のチームが自陣に守備網を敷いて相手を待ち構え、入ってくる所を捕まえる守備とは全く違った守り方。だが、日本の特長である連動性を活かした戦い方は、中国の攻撃力を半減させた。試合は五分と五分の拮抗した展開。手に汗握る戦いが続く。

 だが、やはり中国は強かった。前半の21分27秒11、日本の4人のプレーヤーの間に出来たスペースを突いてYafen Wangがドリブル突破。スピードに乗ったまま放った右足からのシュートが日本のゴールネットを揺らす。そして中国の2点目はWenfa Zheng。後半の17分36秒10に自身からスピードに乗ったドリブルを仕掛け、そのままゴールを陥れた。いずれも、機能していた日本の前線からの守備が緩んだ一瞬の隙を突いたもの。わずかな緩みを見逃さない中国の強さを改めて感じさせられたゴールシーンだった。

 それでも、日本代表にショックはない。
「相手の10番(Wenfa Zheng)、11番(Yafen Wang)のドリブルの切れがよく、それにやられてしまった。だいぶ止めていたけれども、やはり、あのドリブルはすごかった。ちょっと見てしまったのが残念。それでも、ボールを取ることも出来たし、ルーズボールへの反応もよかったので、キャンプでやってきた高い位置からのプレスをかけることに対する手応えは十分にある」とは風祭喜一監督。黒田智成も「チーム全体として戦えていた。負けたことは悔しいけれど、手応えを感じる場面も沢山あったので、明日から全力で戦って勝って、決勝戦では中国を倒そうとみんなで話した」と話す。

 その日本の第2戦の相手は宿敵韓国。4年前のアジア選手権最終戦で敗れ、あと一歩に迫っていた北京パラリンピック出場を阻まれた相手だ。その雪辱を果たし、そしてロンドンへの道を切り開くには勝つしかない。そして23日、日本はその思いの全てをピッチの上で表現することになる。

(続く)


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