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四国に新たな歴史を作り、鳴門渦潮はベスト8で去る。

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西森彰=取材・文・写真

年が改まった2018年1月2日(火)、全国高校女子サッカー選手権のベスト8に残った8校が、再び頂点を目指す戦いを再開した。三木防災公園陸上競技場の第一試合は、昨年度のファイナリスト・大商学園(大阪)と、チーム創設後初めてのベスト8進出を果たした鳴門渦潮(徳島)。試合前の下馬評では、実績に勝る大商が圧倒的に上回っていた。

「たぶん、渦潮は、自陣に固いブロックを作ってくるだろう」と大商の関係者は考えていた。裏にスペースはないだろうから、単純に蹴るだけではダメ。そのブロックの中で穴を探りながら、得点を狙う。それがジャイアントキリングを狙うチームが採るべき戦略だ。

「『相手はそんなにラインを上げて来ないんじゃないか。裏のスペースがないだろうな』と思っていたので、サイドのプレイヤーとワイドのスペースを使っていこう」(林みのり)というのが、大商のゲームプランだった。

ところが、渦潮に80分間、守り倒すサッカーをするつもりはさらさらなかった。「アグレッシブにプレスをかけていって、狭いところに追い込んで行ってボールを奪うサッカーです。そこから点を取りに行くというのが(今年の鳴門渦潮のサッカー)」とDFリーダーの山田茉里奈。彼女が敷く最終ラインは一定の高さを保たれていた。大商の選手はこれに戸惑った。

ここまで、星槎国際湘南(神奈川)、十文字(東京)と立て続けに強豪と戦い、休養日を挟んでも、多少の疲労は残っていただろう。また、2試合続いた守備的な戦いから、急にイニシアティブを預けられ、そのシフトチェンジにも時間がかかった。相手がボールを奪いに来ないので、何となく近くの味方へ預け、足下へのパス交換が続く。

「もうちょっと簡単に裏を使って、相手を下げさせてもよかった。足下でつなぐプレーばかりで、相手とすれば怖くなかったかなと思います」と林みのり。前半半ばまでは、互いに決定機らしい決定機のない、静かな局面に終始した。


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いち早く戦況を理解したのは、経験に勝る大商だった。「前半の途中で、最終ラインの裏が空いているということが分かって『(岡久監督からも)裏を狙え』と言われて、いつものリズムがつかめるようになりました」(林みのり)。

岡久奨監督は「もっと周りを使いながら、ボールを動かしながらプレーできたと思いますけれども、プレッシャーもこれまでの2試合と比べるとなかったので、逆にボールを持つ時間、距離が長かったように感じました。もっとボランチを使ってワンタッチツータッチのプレイを増やそう」と指示した。前線へのフィードが増えだし、個の能力で勝る大商の2次攻撃が増え始めた。

そして、35分、左サイドの連携で渦潮の選手を引きつけると、右サイドで日野くるみが完全にフリーとなり、先制ゴールが生まれる。ここから大商が畳みかけると思われたが、渦潮も反撃に出た。

「今年は先制点を取られることが多く、それでも(四国大会決勝のように)逆転をして勝ってきたという自信もありました。守備陣が体を張ってくれていたので、もう少し前を向いて点を取りに行きたかったんですけれど……。互いの距離が開いて、パスがうまく回らなかったというのはあるかもしれません」(新堀華波・鳴門渦潮))

「緊張の糸が切れた、って感じで、そこから3本ぐらい危ないシーンがあって……。緊張の糸が切れたじゃないですけども」と一瞬、戸惑った岡久監督と大商イレブンだったが、渦潮に勝機があったのは、ここまで。ハーフタイムを挟んだ後は、地力に勝る大商が終始優勢にゲームを進め、51分に林みのり、74分に井上愛未が加点。体調不良で出遅れていた選手たちもしっかりとゲームに下ろしながら、3-0のスコアでゲームを締めた。


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渦潮は、チーム創設後、最高のベスト8で大会を終えた。吉成監督は「試合の流れの中で、決めたり、決められなかったりという部分はあるので、その回数をどれだけ多く作れるかがサッカー。少なくとも、相手の方が、チャンスが多かったので強かったのかなという感じはしております。しかし、そんなに差はなかったので、これから上積みをしていけば。1、2年生が多いので、それを来年、再来年に活かしてもらえればと思っています」。

山田茉里奈は「(渦潮のサッカーを)最後まで貫くことができなかったなというのが残念。それさえできれば十分に戦えたと思うし、最初の時間帯はアグレッシブにできていたのに、時間が経つにつれて『ここでやらなければいけない』というところで消えてしまいました。ひとりひとりが『日本一になりたい』という気持ちを、持ちあっての結果だと思います。来年、今の1、2年生が、私たちの思いを継いでいって、しっかりそれを果たしてもらいたいと思います」。

チーム唯一のシュートを放ったのは、エースの新堀。「後半のシュートは『絶対に決める』という思いで打ちましたが、コースが甘かったです」。後輩たちに託したいのは「これまで何回も悔し涙を流してきましたが、まず全国の舞台に立つということ。そこで勝つということはさらに難しい。今回、ベスト8で負けたことを胸に、練習の時からみんなで引き締めて自分達以上に頑張って欲しいと思います」。

地元のクラブ、徳島ラティーシャの出身。県外留学などの選択肢も持ちながら、それでも地元に進んだ。「自分たちの力はすべて出し切りました。悔いはありません。でも悔しいです。悔いはありませんが、悔しいです。鳴門渦潮に来て、よかったです。それは間違いありません」。自らのゴールでチームをけん引してきたキャプテンは、最後に笑顔を見せて、大会を去った。

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仲間のためのゴールラッシュ。作陽がベスト8に進出

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西森彰=取材・文・写真

インターハイベスト4の作陽(岡山)と、開志学園JSCのゲームは、降り出した雨の中、行われた。キックオフ直後は、開志ペースで始まったが、作陽の高い決定力が流れを一変させた。前半16分、初村和香のコーナーキックからのボールを長身の蓮輪真琴が競り、こぼれてきたボールを、森本紗也佳がしっかりと決めた。

その2分後にも、右からのサイドチェンジを受けた山田優衣が、再びファーサイドへ上げて揺さぶる。3人のDFに詰められた初村だったが、浮き球を強引にシュート。ブラインドから出てきたシュートに、GK高橋夏純も手に当てるのが精いっぱい。「今年の選手は、しっかり蹴れる選手が多い。特別なことはしていないので、それぞれの選手が自主練習で身につけたものでしょう」と作陽の池田浩子監督。その特徴が発揮された2点目だった。

さらに28分、蓮輪が蹴ったボールを高橋夏純がファンブルしてしまい、ふわっとした弾道に合わせて走り込んでくる作陽の選手の姿は、当然目に入っただろう。また、降り出した雨が影響した可能性もある。これまでの予選で、幾度となくPK戦でチームを救う働きを見せてきた守護神だけを責めることはできない。

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前半で既に3点をリードした作陽だったが、その後も攻撃の手を緩めることはなかった。前後半ともに記録されたシュート数は11本ずつ。おとなしくゲームを終わらせるのではなく、さらに追加点を狙っていく。もちろん、早く試合を決めたいという心理も働いていたが、それだけではなかった。

「『みんながみんなのために戦える』部分が今年のチームの強さだと思っています。仲間のためにということを考えて、みんなが力を出してくれるチームワークには自信があります。『点差をつけることで、ふだん試合に出られない選手でもチャンスを与えてもらえる』というのはみんなの頭にあります」と主将の蓮輪。

ハーフタイムを挟んで盛り返した北信越女王の反撃も鋭く、山岸夢歩、石川くらら、間宮あさひらが決定機を迎えたが、作陽はGK中村香苗がビッグセーブを連発し、無失点に抑えた。奮闘の報酬として、山田愛葵、中村萌愛、神田絢音とベンチスタートを強いられた作陽の選手が、次々にピッチへと出ていく。「入ってきた選手に自信を持ってプレーしてもらうのが、自分の役目だと思っている」蓮輪をはじめ、ポジションチェンジしたレギュラーも各自の役割をこなしていく。


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そして71分、4人目の交代選手として高橋萌々香が呼ばれた。

「県大会、中国大会であれば、十分にレギュラーで出せる選手。ただ、全国のトップレベルを相手にした時には、なかなか試合に出してあげられない選手なんです。人柄もいいし、日頃から努力をしていることも知っている。でもそれをわかっていても、なかなか使ってあげられない歯がゆさがありました」

池田監督が「出してあげたいけれど、出してあげられなかった選手」だ。テクニカルエリアの一番前に出て「とにかく萌々香にボールを集めて、シュートを打たせろ!」と指示を送った。そして、アディショナルタイムに、チーム全員が待ち望んでいたゴールが生まれた。左サイドでボールをつなぎながら、前に進み、ラストパスはニアサイドに詰めていた高橋萌々香の足下へ。左足で放ったシュートは、後半、好セーブを続けてきた開志のGK高橋夏純が伸ばした両手の先を転がり、ゴールネットを揺らした。

完全に勝負は決していたが、そこで生まれた4点目がまるで決勝点であるかのように、チームは歓喜した。疲れを忘れたかのように、他の選手が駆け寄って祝福の輪を作った。そこから抜け出した得点者が、ベンチの池田浩子監督に抱きつく。教え子を抱きしめた指揮官の目にも涙が浮かんでいた。


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「いい結果を出せてよかったと思います。(他の選手にも『高橋たちを出したい』)そういう思いがあったんで、あのパスに至ったんじゃないかな。個も大事なんですが、最後にチームとして、戦えたんじゃないかなと思います。3年生は、このチームでは1月7日で終わってしまいます。その先も人生は長いですし、サッカーを続けて欲しいし、サッカーを好きでいてほしいと思います」(池田監督)

1月2日に行われるベスト8は、一昨年、苦杯を喫した東の大将格・修徳(東京)が相手だ。「自分たちがやってきたことを出せれば、勝てないことはない」と蓮輪。頂点を目指す上で、大きなゲームになりそうだ。

藤枝順心、日ノ本学園を破り、日本一奪還に大きく前進

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西森彰=取材・文・写真

第26回高校女子サッカー選手権は、2回戦にして、早くもインターハイ決勝と同じ顔合わせになった。夏冬連覇を目指す日ノ本学園(兵庫)は、関西大会で優勝。1回戦は聖和学園(宮城)との伝統校対決となり、スコアレスドロー。PK戦の結果、2回戦へ進出した。一方、藤枝順心(静岡)は、東海大会を2位抜けして本大会へ。1回戦は専大北上(岩手)に10点ゲームで圧勝した。

1回戦から1日も経たない試合間隔。選手の疲労度から言えば、当然、順心にアドバンテージがあるが、厳しいゲームを経験していないことがどう出るか。事実、インターハイでは準決勝で大勝後、PK戦を勝ってきた日ノ本に敗れた。

「もちろん、日ノ本は一番、厄介な相手だと思っていました。勝負は五分五分かな、と。選手は組合せが決まった時点で今日のゲームの意味をよくわかっていた。1回戦と2回戦はセットだと選手には伝えました。同じ相手に2度負けるのは(できない)。今日も『圧倒して勝て』と送り出しました。そういう気概を持って選手は望んだと思います」(多々良和之監督・藤枝順心)


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前半から、ボールを回しながら攻め口を探る順心だが、日ノ本は大会ナンバーワンGK・米澤萌香の声を頼りに、固い守備ブロックを形成する。そうやってリトリートした状態から、手数をかけないカウンターから、FWの平井杏幸が2回ほど抜け出すシーンを作り出した。「前半を終えた時点で、ウチが1点、2点リードしていなければ、と思っていました。向こうもきちんと引いてブロックを作って、攻めあぐんでいた印象。日ノ本ペースかな、と」多々良監督は感じていた。

そんなジリジリする展開の中で、キャプテンの千葉玲海菜は、ディフェンスラインの前でセカンドボールの保持に力を注いでいた。インターハイでは日ノ本に消耗戦へ引きずり込まれて、我慢比べに負けた。相手のフィードを弾き返した後、ルーズボールを拾い、事故の芽を摘む。プレーする中で千葉は、日ノ本の選手からそれとなく「PKでもいい」という余裕を感じたという。

何しろ、日ノ本はPK戦にめっぽう強い。特に今年の成績は圧倒的だ。インターハイ準決勝の作陽戦に、今大会関西予選決勝、そして皇后杯の関西予選では1回戦から準決勝までの3試合に、前述した聖和戦まで。「5回、6回やって負けていないと聞いていたし、昨日の映像も見ましたが、良いGKがいて、キッカーもいい。『これはPK戦になったら負けるな』と思っていました」と多々良監督。順心は80分以内に勝負をつける必要があった。


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後半になって、リスクを消す役目に専念していた千葉が、攻撃に関わるようになり、ここからゲームが動き出した。55分、順心の攻撃。左SBの森藤凛からペナルティエリア手前に絶妙のクロスが送られる。フリーで小原蘭が走り込んできたが、状況を把握したGK・米澤が飛び出してクリア。直後にも、今田紗良のクロスから日ノ本ゴール前で混戦になり、最後はこぼれ球を齋藤久瑠美がシュート。これが日ノ本のゴールバーを叩く。順心に流れが来つつあった。

劣勢を感じ取った日ノ本イレブンは、ここで反撃に出ることを選択する。球際の強さを活かしながら、徐々に順心陣地へ入り込む日ノ本の選手たち。これを田邊友恵監督(日ノ本)は、複雑な心境で見守っていた。「どこかでワンチャンスを決めきれればと思っていた。別にPK戦をしたいわけではなく、試合の中で点を取って勝ちたい。GKはともかく、キッカーを務めるフィールドの選手はその気持ちが強い。そしてある程度それができていたら、人間だし、そうなってしまう」。

互いに五分の状態だったのなら、この選択も功を奏していたかもしれない。しかし、二日続きのゲームで、蓄積した疲労度には差があった。前半、守備に徹して差を埋めていたが、ここで前に出たために、日ノ本のガソリンは枯渇しつつあった。72分の決勝ゴールはそんな中で生まれた。

右サイドからのクロスにニアサイドで競り合ったこぼれ球へ、今田が走る。日ノ本守備陣の人数は足りていたが、誰がここに行くべきか、互いに躊躇した。ようやく寄せてきた渡邊那奈を1タッチで交わした今田は、左足を振り抜く。「(渡邊に)うまく指示ができなかった」と悔やむ米澤の手を掠めながら、シュートは日ノ本のゴール右隅に転がり込んだ。

「展開がこうなって、攻められるかもという感じになって、攻撃に出た結果、スペースに戻り切れなくなった。最後まで冷静にという部分が足りなかった。結果的には相手陣内に攻めあがっていたため、最後はスペースを埋めるだけの足がなくなっていた。でも、ああいうシーンでしっかりとシュートを打ち切るのが個の強さですよね」と悔しそうに語った、日ノ本の田邊監督。

得点面では最も期待できる渋川鈴菜を失点直前に交代していた日ノ本に、追いつく術はなかった。


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「クリアミスがたまたまこぼれてきました。普段慌てているのに、落ち着いていました。消極的だったので、積極的に行こうと思っていました」と殊勲の今田。実は、大会の3週間前、ケガに見舞われていた。患部はひどく腫れて、最初は松葉杖をつくほどの状態。練習も2週間休んだが「残りの1週間で驚異的な回復を見せ、そこからはこの試合に照準を合わせてきました」(多々良監督)。

もともと、順心の指揮官は、ケガ明けの選手に多くの期待は寄せない。

「ケガ明けの選手が活躍することは多くないので、今回もあまり期待していませんでした。前半、悪かったらすぐに後半、代えようと思っていました。2年前の児野楓香(藤枝順心→日体大)くらいしかうまく行った例がない。ただ、今田は児野の姿を見ていましたから」(多々良監督)。

1回戦の専大北上戦、今田はスタンドから控え選手たちとともに、ピッチ上のチームメイトへ声援を送った。「試合に出られない選手が本当に楽しそうに応援している姿を近くで見て、この人たちのためにも、夏の借りを返さなきゃいけないと思いました」と今田。中盤での競り合いを制した千葉は、その活躍に「この日のためにやってきたんだから、やってもらわなきゃ困る」。3年間、良い時も悪い時も一緒に過ごしてきた同級生の活躍は、キャプテンにとっても、嬉しいものだったはずだ。

秋を越えて、下級生がレギュラーに増えてきた順心。だが、大一番を制したのは、経験豊富な最上級生の力だった。
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